Segmentectomy versus lobectomy in small-sized peripheral non-small-cell lung cancer (JCOG0802/WJOG4607L): a multicenter, open-label, phase 3, randomized, controlled, non-inferiority trial.
Saji H, Okada M, Tsuboi M, Nakajima R, Suzuki K, Aokage K, Aoki T, Okami J, Yoshino I, Ito H, Okumura N, Yamaguchi M, Ikeda N, Wakabayashi M, Nakamura K, Fukuda H, Nakamura S, Mitsudomi T, Watanabe SI, Asamura H; West Japan Oncology Group and Japan Clinical Oncology Group.
Lancet. 2022 Apr 23;399(10335):1607-1617.
2022年4月23日号Lancet掲載の報告。
日本国内の医療機関で行われた「JCOG0802/WJOG4607L試験」の結果で、ソリッド優位(CT比50%以上)の腫瘍径2cm以下、末梢1/3に存在する臨床病期IA期非小細胞肺がん(NSCLC)に対して、区域切除は肺葉切除と比べて全生存(OS)において想定していた非劣性だけでなく優越性でも有意に良好が示された。事前に規定した予後因子全てでのサブグループでも、区域切除の優位が一貫して認められた。「本試験は小型NSCLCの全生存について、区域切除と肺葉切除のベネフィットを比較検討した世界初の大規模第3相試験で、区域切除を肺野型小型NSCLC患者の標準外科治療とすべきである」との結論である。
第III相の非盲検無作為化対照非劣性試験「JCOG0802/WJOG4607L」は、日本国内70ヵ所の医療機関にて行われ、臨床病期IA期のNSCLC(腫瘍径≦2cm、C/T比>0.5)の患者を無作為に2群に分け、一方には肺葉切除を、もう一方には区域切除を実施した。無作為化は最小化法で、施設、組織型、性別、年齢、薄切CT所見を考慮した。
主要エンドポイントはOS(全死亡)、副次エンドポイントは術後呼吸機能(6ヵ月、12ヵ月)、RFS(無再発生存)、局所再発の割合、有害事象、区域切除完了の割合、入院期間、胸腔チューブ留置期間、手術時間、出血量、外科用ステープル使用数だった。OSはITT解析を行い、非劣性マージンはハザード比(HR)の95%信頼区間(CI)上限値1.54に設定し、層別化Cox回帰モデルを用いて算出し検証した。
2009年8月10日~2014年10月21日に、被験者数1,106例(ITT集団)が登録され、肺葉切除群は554例、区域切除群は552例だった。両群患者のベースライン臨床情報と病理所見はバランスがとれていた。なお、区域切除群のうち、22例が肺葉切除に切り替えられ、1例が楔状(部分)切除を受けた。
追跡期間中央値7.3年で、5年OS率は区域切除群が94.3%(95%CI:92.1~96.0)、肺葉切除群は91.1%(88.4~93.2)で、区域切除群の非劣性、更に優越性が確認された(HR:0.663、95%CI:0.474~0.927、非劣性片側p<0.0001、優越性p=0.0082)。事前に規定したサブグループでのOS解析で、全ての因子に関して区域切除術群はより良好だった。
術後1年の呼吸機能をみたFEV1の減少率中央値は、区域切除群12.0%、肺葉切除群8.5%で有意差がみられたが(群間差:3.5%、p<0.0001)、事前に設定した閾値(10%)には達しなかった。5年RSF率は、区域切除群88.0%(95%CI:85.0~90.4)、肺葉切除群87.9%(84.8~90.3)で同等だった(HR:0.998、95%CI:0.753~1.323、p=0.9889)。局所再発率は、区域切除群10.5%、肺葉切除群5.4%と区域切除群で有意に高率だった(p=0.0018)。Grade2以上の術後合併症発生率は、それぞれ148例(27%)、142例(26%)で同程度だった。死亡合計は、区域切除群58/552例(10.5%)、肺葉切除群83/554例(14.9%)で、その差がOSの差として現れたと推測された。死亡原因の内訳は肺がん原病死はそれぞれ26例(4.7%)、28例(5.1%)と同等であるが、それぞれ27例(4.9%)、52例(9.4%)が術後に他の疾患で死亡していた。その他病死を詳細に見ると、第二肺がんを含む他がん発生頻度は同等にも関わらず他がん死が区域切除群12例(2.2%)、肺葉切除群31例(5.6%)であり、一方非がん死はそれぞれ15例(2.7%)、21例(3.8%)で、肺葉切除群において明らかに他がん死と他病死が多かった。再発後の治療をみると、手術が行えたのは区域切除群14例に対して肺葉切除群2例で、薬物療法、放射線療法を実施できた割合も明らかに区域切除群が上回った。
以上まとめると、区域切除群は再発が多いのに肺がん原病死は両群で同等、第二肺がんを含む他がん死やがん以外の他病死は区域切除群で少ない。その理由として、再発後や術後に発生した致死的な病気に対する治療強度が区域切除群では明らかに強いことが考えられた。肺がん手術においても「Less is More(がん根治より機能温存)」の重要性が示唆され、呼吸器外科領域では史上最高のエビデンスを生み出した試験となったのである。
