低糖質食は2 型糖尿病に有効か? [British Medical Journal, Jan 2021]

Efficacy and safety of low and very low carbohydrate diets for type 2 diabetes remission: systematic review and meta-analysis of published and unpublished randomized trial data.

Goldenberg JZ, Day A, Brinkworth GD, Sato J, Yamada S, Jönsson T, Beardsley J, Johnson JA, Thabane L, Johnston BC.

BMJ. 2021 Jan 13;372:m4743. doi: 10.1136/bmj.m4743.

2021年1月13日号 British Medical Journal掲載の報告。

2型糖尿病に対して待望のヒト由来インスリンが治療に導入後、すでに長い年月が経過している。だが、正直言って期待されたような成果が出ているとは言い難い状況にある。インスリンが発見される以前に、2型糖尿病の治療食として“低糖質食”が使用されていた経緯がある。温故知新の教えのごとく、近頃、低糖質食が見直されている。栄養バランスの許す限り、低糖質食で治療することは古くて新しい2型糖尿病治療へのリバイバル治療になる。本論文はこのような観点からも、多くの読者に多大なインパクトを与えるのではないか。低糖質食を6ヵ月間継続した2型糖尿病患者は、有害事象なく糖尿病が改善する可能性があることを、米国・テキサスA&M大学の研究グループが、システマティックレビューおよびメタ解析により明らかにした。これまでのシステマティックレビューでは、低糖質食の定義が広く(総カロリーの45%未満)、糖尿病の寛解について評価されていなかった。
 研究グループは、2020年8月25日までに発表された研究を検索し、システマティックレビューおよびメタ解析を行った。適格研究は、成人2型糖尿病患者を対象に、12週間以上の低糖質食(炭水化物摂取量が1日130g未満、または2,000kcal食の26%未満)もしくは超低糖質食(総カロリーの10%未満)を評価した無作為化試験とした。2人の著者が独立して適格性のスクリーニングおよびデータ抽出を行った。主要評価項目は、糖尿病の寛解(糖尿病治療薬の使用の有無にかかわらずHbA1c<6.5%または空腹時血糖値<7.0mmol/L)、体重減少、HbA1c、空腹時血糖値および有害事象、副次評価項目は健康関連QOLおよび生化学的検査データで、6ヵ月(±3ヵ月)および12ヵ月(±3ヵ月)時の報告とした。

 23の研究(1,357例)が適格基準を満たし解析に組み込まれた。6ヵ月時における糖尿病寛解率は、治療薬使用の有無は問わずHbA1c<6.5%と定義した場合は、低糖質食群(57%、76/133例)が対照食群(31%、41/131例)より高率であった(リスク差:0.32[95%信頼区間[CI]:0.17~0.47]、8研究、264例、I2=58%、p=0.02)。一方、治療薬なしでHbA1c<6.5%達成を糖尿病寛解と定義した場合、低糖質食の相対的効果は低下した(リスク差:0.05[95%CI:-0.05~0.14]、5研究、199例)。信頼性基準を満たしたサブグループ解析の結果、インスリン使用患者を含む研究では、低糖質食による寛解率は著しく低下したことが示された。体重減少、トリグリセライドおよびインスリン感受性に関しては、6ヵ月時は低糖質食による臨床的に重要で大きな改善が認められたが、12ヵ月時には効果がみられなかった。6ヵ月時の体重減少効果は超低糖質食群のほうが、より制限の少ない低糖質食群よりも小さかった。ただし、この効果については食事療法の順守が影響していることが示され、超低糖質食のアドヒアランスが高い患者は低い患者と比較し、臨床的に重要な体重減少が認められた。低糖質食は、6ヵ月時におけるQOLに有意な影響は及ぼさなかったが、12ヵ月時のQOLおよびLDLコレステロール値については、臨床的に重要な悪化が認められた。

本論文の結論を手短に言えば、1日130g未満の低糖質食を少なくとも6ヵ月間遵守できれば、大きな有害事象なく糖尿病の寛解を達成できる。今回のデータは研究期間が短い点に限界があることを念頭に置いたうえで、とりあえず低糖質食での治療が完遂できれば、糖尿病は寛解することを確認できたことに意味がある。もちろん、低糖質食をさらに厳しくやれば(1日50g未満)改善効果が消失し、悪玉コレステロールの上昇を認めている。その理由は超低糖質食の遵守破綻によると考えられており、成功するためには糖質制限を遵守完遂することが治療成功の必要条件になる。低糖質食は生涯を通して行う必要があるため、社会環境の整備も完遂のために急務と考えるが、現在すでにその環境が整いつつある。

 インスリン抵抗性の改善なくして、インスリンによる治療の前途は必ずしも明るくはない(発がん、動脈硬化、易感染性の発生)。比較的新しい経口糖尿病薬SGLT2阻害剤は、インスリン濃度を上げず血糖を下げる薬として新しい切り口の経口糖尿病治療薬であり、単独での血糖降下作用は弱いが、低糖質食とのコラボでのより良い成果に期待する。長期にわたる低糖質食の確実な予後改善効果の証明が待たれるところである。12ヵ月を過ぎると有効性が消失するとのメタ解析結果も出ており2)、一時的効果はあるが、永続的効果は目下、証明されていると言い切れない状況である。低糖質食は、インスリンを上げない薬物治療との併用で手詰まり状態になっている2型糖尿病治療に、風穴を開けることができるのではと密かに思っている。

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